北欧視察ツアー レポート


スウェーデン・デンマークの高齢者福祉

-北欧の高齢者住宅と高齢者を支える地域サービス-

《第18回視察の記録―平成18年11月12日~20日》

スウェーデン・デンマークの視察を始めて11年目となった。昨年の11月で18回目を迎えたこの視察は、北欧の高齢者住宅や居宅介護・医療・福祉システムを視察して、日本との違いを理解し、それぞれの参加者の業務分野で、向かうべき方向を明確にすることを目的としている。今回の視察で見てきた北欧の高齢者住宅と、そこに暮らす高齢者の活動について最新動向をレポートする。
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★デンマークの高齢者住宅と高齢者の活動拠点

18-2デンマークは、首都コペンハーゲンから北に30kmに位置するフィロスフォルム市のソフィーロン地区を訪れた。人口2万5千人のこの市では、市を2つの地区に分けて、地域に密着した高齢者向けのサービスを提供している。ここアクティビティーセンター・ソフィーロン(地域センター)(写真①)には、1998年日本の天皇・皇后両陛下が見学に訪れている。その時に説明したというダン・ポールセンさんにセンターと高齢者住宅を案内してもらった。

 

 
≪写真① 地域センター≫

■高齢者の活動拠点 アクティビティーセンター

このセンターの建物は市が所有し、12名(常勤換算6名)の市職員と80名のボランティアで、およそ30種類のアクティビティーを行なっている。具体的な活動は、地域に住む高齢者からこんなことをしてほしいという要望に、市職員が講師となって対応する。参加者に教えるための研修をその都度受けながら行なうが、参加者の中には上手な人もいるので、その場合にはボランティアで講師になってもらうこともある。カルチャー教室とは違った、温かな雰囲気がそこからは伝わってくる。

訪ねた時期がちょうどクリスマス前で、手芸や木工などでバザー用のクリスマスグッズ作りに、わいわいがやがやと楽しみながら作業していた。作品はバザーに出されるが、バザーの売り上げが、ほぼ材料費相当なので個人の負担はほとんどない。

50歳から70歳代の元気な高齢者が、市内から自力で公共交通(バス)を利用して1日140人から150人訪れている。伝統的なイベント行事や、簡単な体操やヨガ、ダンスなど体を動かす運動も行なわれている。トランプやビンゴなどのゲームも楽しんでいる。1~2泊の小旅行も行なわれ、まさに高齢者のアクティビティーセンターであり、楽しみの場所となっている。
センター内には、カフェテリア方式のレストランが土日も休みなく営業されていて、参加している高齢者はここで昼食を取る。レストランもまさに集いの場’センター’となっている。視察に行った私たちの昼食のお世話をしてくれた高齢者もボランティアで参加していると後で聞かされたが、アクティビティーに参加する人も、それを手助けするボランティアの人も、一体となって運営していることで参加者同士の親近感が感じられる。

日本では介護予防が今年度から導入され、リハビリ・口腔ケア・栄養改善が注視されているが、受身となってサービスを受けるケースと、自発的・能動的な参加型アクティビティーとでは、その効果は大きな差となって現れるだろう。介護予防とは本来こうあるべきなのだろう。

★1万人程度の生活圏域を決めて高齢者サービスニーズを把握する

デンマークは、日本と同様に地方自治体の合併が盛んに行なわれている。14の県が合併して5つの郡になり、市町村も約半数の130くらいになる。行政のスリム化・合理化を目指したものだが、2007年1月から、従来県が所管してきた福祉機器の貸与などが市町村に移管されることとなった。

デンマークでは市町村を1万人程度に地区割りをして、より密着したサービスが提供できるように配慮している。その地域に住む高齢者(およそ2千人)のニーズを把握しやすくし、福祉サービスを的確に提供するシステムが全ての市町村にはできている。今回の県から市町村への所轄変更によって、より一層身近にサービスが提供できることになるのだろう。

各家庭に1人の開業医をホームドクターを登録するシステムにより適正(過剰でない)な初期診療や治療が行なわれている。75歳になるとアンケートをして介護サービスを必要としているか否かの把握をきめ細かく行なっているなど、必要な人に必要なサービスを提供する社会システムが構築されている。市町村合併によって、より多くのサービス提供がよりスムースに行なわれることになるだろう。

日本でも、デンマークと同様に一定の生活圏域を定めて、介護サービスの見込み量を推定した介護保険事業計画を市町村が作成することとなっている。しかし、その圏域がある市では15万人と大きすぎたり、またニーズ調査をしないでサービス整備量を決めてしまうなど、その計画はかなりずさんなものとなっている。市民のニーズを的確に把握することが、適正なサービス提供につながることことを認識する必要がある。 

★デンマークの高齢者住宅―――入るには審査が必要

18-2デンマークは、1987年高齢者住宅法ができて、プライエム(日本の特別養護老人ホームに相当)の建設を中止し、従来の施設を個室住宅に造り替えている。病院の入院施設を共同住宅に変えるといったもので、大掛かりな改修工事になる。トイレ・シャワーやキッチンを組み込んで、2つの病室を1戸の住宅に変えていくわけだから大変だ。
現在の高齢者向け住宅の居室面積は1戸当り共用スペースを入れて60~65㎡、専有面積は40~45㎡が確保されている。
前述のアクティビティーセンターを中心にして、その周辺にプライェボーリー(介護住宅)とエルダーボーエンデ(高齢者住宅)が配置されている。(写真②・③)

≪写真②デンマークプライェボーリー≫

 認知症の高齢者対象のユニット8戸

 

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センターには食事機能があり、訪問介護や訪問看護ステーションの拠点があるため、いざという時の緊急対応が迅速にできる点や、食事の配食など効率的にできることからセンター近くに配置されている。入居者にとっても、すぐ近くにセンターがあれば、行事への参加が容易で、緊急時にすぐに駆けつけてくる安心感が得られる点からも評判が良い。
いずれの入居も市のビジテーター(判定員)によって、認められた人しか入居できない。日本への紹介記事では、エルダーボーエンデ(高齢者住宅)は早めの移り住みを意味していると訳されているが、実際は介護を必要としている人しか入居できないので、自立して生活している人はこの対象から外されている。

≪写真③デンマークエルダーボーエンデ≫

 1フロアー4戸3階建て12戸

■小さなグループで生活(ユニット)

新築したものは6戸から10戸の規模でユニット構成をとっているが、プライエムを改修したものは、15戸程度と大き目のユニットもある。
50戸100戸といった大きな単位で生活すると、サービスが施設化してしまう。これを避けるために小さなユニット構成を原則としているのだ。
例えば食事サービスの場合、大きな食堂に決められた時間に集まって、決まった献立の食事を、介護職員から食べさせてもらう。これでは、自分の意思表示ができず、何がしたいかが言えなくなり、次第に生活意欲は減衰する。身体の状態も悪化に方向に進んでいくだろう。

一方小さな単位のユニットでは、自分の生活リズムが確立できて、何時に起きるか、何を食べたいか、何時に食事を取るか、全て自身の生活リズムで決めることができる。少人数のため、食事メニューは希望を聞いて決めることも可能となる。自己決定を尊重したこのような生活をすることで、ポジティブな生活意欲を持ち、身体状況の改善に繋ぐことができる。

このような考えからユニット方式が多く取り入れられている。

★介護住宅と高齢者住宅

プラーエム廃止以降、デンマークでは2種類の高齢者住宅が作られている。
介護職員や看護師が建物内に専属に配置され、重度の介護が必要な人を対象とした住宅がプライェボーリー(介護住宅)だ。日本の要介護4か5に相当する人や、認知症高齢者・癌の末期患者なども対象となる。アルコール中毒で治療を終えて社会復帰を目指す人も入居していて、必ずしも高齢者専用の住宅というものではない。
ただし、認知症高齢者は少しの外的刺激にも混乱がおきやすいので、1つのユニットで生活し、ユニット内で見慣れたスタッフから食事サービスや介護サービスが提供されている。

一方、介護職員が配置されていない、比較的軽い介護を要する高齢者向け住宅がエルダーボーエンデ(高齢者住宅)だ。入居者はご夫婦のいずれかが認知症であったり、身体の衰えで日常生活が何らかのサポートが必要な高齢者が生活する場となっている。

食事はセンターに行って食べることもできるし、冷凍された食事を1週間分配達してもらうこともできる。介護は訪問看護や訪問介護を利用する。一般的な住宅に住むのと何ら変わらないが、センターに近いという立地がなによりの安心となっている。

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★スウェーデンの高齢者住宅

人口48万人、ストックホルムに次ぐ2番目に大きな都市ヨーテボリを訪ねた。ここではヨーテボリ市から3ヶ所の高齢者特別住居(認知症グループホームなど42ユニット360戸・運営に携わる職員は350人)の運営を委託されている’3つの財団’を訪問し、ダイレクターのモニカ・バリルンドさんから説明をうけた。

■高齢者特別住居 エングゴードバッケン

5_13pm_Den23つのホームの1つで1862年に建築され、2002年に改装・増築したというエングゴードバッケンは、その歴史の重さを感じさせるエントランスを持った建物だ。(写真④)

重度要介護者向け住宅や認知症高齢者グループホーム、精神疾患の患者向けや機能障害を持つ若年者向けのグループホームなど170戸の大規模な高齢者特別住居だ。
デンマークと同様、ここでも全ての住居がユニット構成となっていて、1ユニットには8から9名の要介護高齢者などが生活している。

≪写真④エングゴーとバッケンエントランス≫

建物内部は、家庭らしい環境を整え、調和がとれた家具や装飾を心がけ、部屋から一歩出ると誰かしらとの出会いが簡単にできる共用部のリビングの空間が配置されている。床・壁・ドア・トイレの便器などの色彩はコントラストを付けて見分けがし易く配慮されており、認知症の人にとって識別しやすい造りとなっている。照明は暗いのが北欧の定番だが、ここでは白色の蛍光灯は転倒事故を起こしやすいので使用しないこととしているが、全体に明るく配慮されている。もちろん全てが間接照明だ。

居室の専有面積は30~35㎡で洗面・トイレ・シャワーは居室内に設備されている。しかし、ここのホームにはキッチンが付いていない。今まで多くの高齢者住宅をスウェーデンで見てきたが、キッチンが居室に付いていないのはここくらいではないだろうか。建物が古く特例的な扱いとなっている。

居室にはベッド以外は入居者が永年使ったインテリアを持ち込んでくるので、部屋ごとにそれぞれが個性を持っていて、施設ではなくてまさに住宅として存在している。

ここには大きな庭が3つあり、それぞれのコンセプトに基づいて造られている。自然を愛するスウェーデン人らしく、美しい花がいつでも咲いているように種類を選んで植えている。畑が作られていて、野菜の栽培を行なって、収穫を楽しんでいる。庭には鶏が飼われていて、そのお世話は入居者がアクティビティの一環として行っている。

18-5庭には小道があり、アスファルト・小石・石畳・砂利道があり、歩行訓練とともに足に伝わる感触や、歩いた時の音で刺激を受けるよう計算されている。(写真⑤)

花の匂いや色彩の鮮やかさから視覚や臭覚を刺激し、小道を歩く音や感触で聴覚や触覚を刺激する。収穫したものを食べる味覚まで、一貫して五感を刺激することが緻密に配慮されている庭である。

 

≪写真⑤庭に造られた刺激する歩道≫

アクティビティーはユニットごとに行なわれている。各ユニットに1人のアクティビティー担当職員がいて、ティータイムに変化を持たせたり、車椅子のダンスやノーベルディナーパーティなど行なっている。大きなアクティビティーばかりではなく、今日も明日も同じだと楽しみがなくなるので、毎日毎日に節目をつけるように、小さな出来事を大事にするよう心掛けている。

職員教育は毎年見直されているが、①認知症ケア ②脳卒中の後遺症ケア ③食事(栄養学)に関しては重点的に研修が行なわれているため、サービスの質の高さが維持できているのだろう。

入居者を中心に置いてサービスが提供されよう気を配り、高度なQOL(Quality of Life)を提供し、美味しい食事ときれいで清潔な居室の提供が、’3つの財団’の基本運営方針である。

■ヴェーガヒュースで行なわれている 若年性認知症デイケア・クラブヴェーガ

また、’3つの財団’が運営する別の高齢者特別住居ヴェーガでは、その建物の一部を使って若年性認知症のデイケアサービス’クラブヴェーガ’が行なわれている。

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認知症の末期に近い高齢者を対象としたデイケアサービスは、ヨーテボリ市内にはいくつかあり、認知症の初期段階の患者がここを利用することは不幸なことで、不適切であるとの考えから、70歳以下の初期から中期までの認知症患者に、コミュニティの場を提供し生活の支援を行ない、アクティビティーの場を提供している。(写真⑥)

 

≪写真⑥ クラブヴェーガ利用者を囲んで懇談≫

精神的な落ち込みを癒し進行をゆっくりさせる効果がある。クラブヴェーガの利用者の中には自分の病気について自覚している人たちも多い。まだ働き盛りで一家を支えている人が認知症という病気にかかることは辛いことだ。また仕事に追われている家族の中にあっては、相談もできず1人であれこれ思い悩んでしまうこともある。家事能力が徐々に減少してきている状態で一人家に取り残されている。

ここでは、利用者が同じような状況にある他の利用者と出会うことができる。お互いの体験を話し合い、職員からの専門的な支援を受けることもできる。個人の能力や要望に応じていろいろなアクティビティー行なっており、前もって1日のプログラムは決められておらず、プログラムが毎日違うのはそのためだ。

毎日2名の認知症ケアの専門教育を受けた准看護師がケアにあたっている。
家族にとっても息抜きが必要であり、家族に対して大きな支えとなっている。

スウェーデン社会省によると、現在スウェーデンでは70歳以下の初期から中期の認知症患者は2万人程度いるという。ヨーテボリ市には1千人が居住しているが、クラブヴェーガの利用は16人まで可能で、たった2%の利用に過ぎない。

1日に6名までが利用でき、利用者は週2~3回通ってきているが、より多くの人に利用してもらうために上限を3回に制限している。
利用希望者があまりに多いために、市の補助金で増設した。スウェーデンの新聞やラジオ・テレビでこの記事が何度も取り上げられ、その果たす役割の大きさが伺える。

日本でも初期の認知症の患者に対するデイサービスが不足している。また専門教育を受けたスタッフの従事にいたっては、ほとんどできていないのが実状である。誰もが認知症になる可能性があり、高齢化するほどその発症率が高まっていく認知症に対する対応を日本でもしっかりと考えていく必要がある。

デンマークもスウェーデンも同じような高齢者福祉政策をとっているため、大きな違いはない。高齢者住宅・施設は、従来からの施設を廃止して、独立したユニット住宅に造り替えた上でサービスの提供を行なっている。施設から住宅への転換がスムースに行なわれた結果、今日のような高齢者住宅が提供されている。

団塊の世代にとって、まだ実感として捉えられないだろうが、高齢になり、要支援や要介護状態になった時、また認知症を発症した時、どこでどのように暮らしたいか、今自立できているこの段階から少しずつ考え始める必要があるだろう。

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