3つのホームの1つで1862年に建築され、2002年に改装・増築したというエングゴードバッケンは、その歴史の重さを感じさせるエントランスを持った建物だ。(写真④) 重度要介護者向け住宅や認知症高齢者グループホーム、精神疾患の患者向けや機能障害を持つ若年者向けのグループホームなど170戸の大規模な高齢者特別住居だ。 デンマークと同様、ここでも全ての住居がユニット構成となっていて、1ユニットには8から9名の要介護高齢者などが生活している。 ≪写真④エングゴーとバッケンエントランス≫ 建物内部は、家庭らしい環境を整え、調和がとれた家具や装飾を心がけ、部屋から一歩出ると誰かしらとの出会いが簡単にできる共用部のリビングの空間が配置されている。床・壁・ドア・トイレの便器などの色彩はコントラストを付けて見分けがし易く配慮されており、認知症の人にとって識別しやすい造りとなっている。照明は暗いのが北欧の定番だが、ここでは白色の蛍光灯は転倒事故を起こしやすいので使用しないこととしているが、全体に明るく配慮されている。もちろん全てが間接照明だ。 居室の専有面積は30~35㎡で洗面・トイレ・シャワーは居室内に設備されている。しかし、ここのホームにはキッチンが付いていない。今まで多くの高齢者住宅をスウェーデンで見てきたが、キッチンが居室に付いていないのはここくらいではないだろうか。建物が古く特例的な扱いとなっている。 居室にはベッド以外は入居者が永年使ったインテリアを持ち込んでくるので、部屋ごとにそれぞれが個性を持っていて、施設ではなくてまさに住宅として存在している。 ここには大きな庭が3つあり、それぞれのコンセプトに基づいて造られている。自然を愛するスウェーデン人らしく、美しい花がいつでも咲いているように種類を選んで植えている。畑が作られていて、野菜の栽培を行なって、収穫を楽しんでいる。庭には鶏が飼われていて、そのお世話は入居者がアクティビティの一環として行っている。 庭には小道があり、アスファルト・小石・石畳・砂利道があり、歩行訓練とともに足に伝わる感触や、歩いた時の音で刺激を受けるよう計算されている。(写真⑤) 花の匂いや色彩の鮮やかさから視覚や臭覚を刺激し、小道を歩く音や感触で聴覚や触覚を刺激する。収穫したものを食べる味覚まで、一貫して五感を刺激することが緻密に配慮されている庭である。 ≪写真⑤庭に造られた刺激する歩道≫ アクティビティーはユニットごとに行なわれている。各ユニットに1人のアクティビティー担当職員がいて、ティータイムに変化を持たせたり、車椅子のダンスやノーベルディナーパーティなど行なっている。大きなアクティビティーばかりではなく、今日も明日も同じだと楽しみがなくなるので、毎日毎日に節目をつけるように、小さな出来事を大事にするよう心掛けている。 職員教育は毎年見直されているが、①認知症ケア ②脳卒中の後遺症ケア ③食事(栄養学)に関しては重点的に研修が行なわれているため、サービスの質の高さが維持できているのだろう。 入居者を中心に置いてサービスが提供されよう気を配り、高度なQOL(Quality of Life)を提供し、美味しい食事ときれいで清潔な居室の提供が、’3つの財団’の基本運営方針である。 |